読書篇
開講にあたって

私が本講を開講しようと思い立ったのにはいくつかの理由があります。

第1の理由。世に出ている定番の読書論というと、『読書論』(小泉信三著)、『知的生活の方法』(渡部昇一著)など、これまでのものは観念論が先立つものが多い気がします。

それぞれ私も大きな影響を受けた名著ですが、読書することの重要性とか、本への考え方、本との向き合い方が内容の多くを占め書かれていて、それを読んでも、読書の具体的やり方はなかなかわからない。

今、私は北陸大学で客員教授として「リベラルアーツ」(教養教育)の講義を受け持っています。その中で、読書をテーマとした講義を行なっていますが、学生たちから寄せられる質問の中に「本の読み方がわからない」というものがありました。

なるほど、「本の読み方」かと虚をつかれました。

「本は面白いものだから、読み方もなにもないよ」と口から出かかって、はたと気づいたのです。本を当たり前のようにして読んできたのですが、自分の読書法を振り返ってみると、たしかに“読み方”があるのです。

学生たちが口にするのは、たとえば――。

こうした疑問もわからなくはありません。もしかしたら、意外と多くの人が抱えている読書についての悩みなのかもしれません。こうした悩みをきっかけとして、本を読んでいてもつまらないとか、本を読む気がしないとかいった若者が多くなっているのでしょう。

だから、私は本書で、本の読み方について、より効率的でより身につく方法を示唆したいと思っています。この読み方を学ぶだけで、あなたの読書が変わります。


噂の『××リーディング』たち


たしかにこれまでも、本をどのように読めば効率があがるかといった技術論・方法論はたくさん出版されてきました。今まさに流行し、書店の棚を席巻しているのが、この技術論・方法論です。

『本を10倍速く読む方法』『レバレッジ・リーディング』『フォーカス・リーディング』『キラー・リーディング』『本は10冊同時に読め!』『多読術』『インテリジェンス読書術』『マインドマップ読書術』『ビジネスマンのための「読書力」養成講座』『斎藤孝の速読塾』『王様の速読術』など、あげればキリがない。もちろん、すべてそれなりに役に立つ考えがあり、参考にもなるのでしょう。

しかし、なかには首をかしげたくなるものがあるのも事実です。

1時間で本が1冊読めるとか、写真のように本のページを頭に写すつもりで読むだとか、本を読んで大金持ちになるとか……。そして、その結果として、「本が1時間で読める」「仕事の効率が10倍になる」「年収が10倍になる」……こうなってくると白髪三千丈の世界です。

本を読む時間は短ければ短いほうがすごそうだから、あの本が「1時間で読める」とうたっているなら、こちらは「30分で読める」になるし、さらには「15分」「10分」、あげくの果てには「1分」とだんだん短くなっていくわけです。

著者のほうもすごくて、読んでいる冊数が多いほうが優位(?)に立てるとでもいうのか、「年間3000冊読んだ読書王」という方まで出てきました。

みんな「こっちのやり方のほうがスゴイよ」と言いたくて、実のないことを延々と言い募っているというのが、現在の出版界の「読書本」の現状ではないでしょうか。読書論が、ほら吹き合戦みたいになってきてしまいました。

こうした本は、「本を読むことが重要だ」と主張しながら、本の信頼感を損ねているように思えます。

みなさんもうすうす気づいているでしょうが、こうした本は全部、過剰すぎる宣伝です。もっとわかりやすく言えば、ウソです。


その本、読んで、年収増えましたか?


本当かな?なんて思いながらも、一縷の望みをかけて購入してしまう。読んで、実行してみて、損したと思う――こんなことを繰り返している方も意外に多いかもしれません。

これらの宣伝文句がウソだというのは、私が保証します。本を読んで年収が10倍になったら苦労しませんし、眺めるだけで本が10倍速く読めるようになる方法論もありません。

揚げ足をとるわけではありませんが、「年収が10倍になる」といった本を読んで、実際に年収が10倍になった人がまわりにいますか? 「本を読むのが10倍になる」という本を読んで、実際に10倍になった人がいますか? 本を読んだだけで、年収が10倍になるのなら、その本が売れた部数とおなじだけの人が年収100倍になっているはずなのに……。

こうした状況を目にすると、私は情けなくなってきます。本は風邪薬ではありません。朝読んで、昼前には効いてくるなんてことはないのです。速効を気にしてはいけません。


本は最強の経営コンサルタント


しかし反対に、本が利益をもたらす最強のツールだというのもまた真実なのです。

私は実際に社長に就任した際に会社が抱えていた130億円の借金を7~8年間のうちに完全に返済しました。就任直後には、経営のノウハウも何もかもがわからなかった私がこうしたことを可能にしたのは、間違いなく本の力によるものだと断言できます。

それ以来、本を最強の経営コンサルタントとして活用し、会社は安定経営を続けています。

本というものは、まず自分を高めて、自分の器を広めて、仕事も捗り、効率も良くなる、人類が今まで築き上げてきた、最強かつ最高の知的プールなのです。

これまで、「10倍、100倍」を銘打つような技術論の読書術では、けっしてあなたのためになる良い読書にはつながらないだろうという思いを常々抱いてきました。それとおなじく、本との向き合い方を説いた歓念論だけでは、冒頭に書いた学生たちの悩みも解決できないでしょう。

そこで本書では、その両方を解決する新しい読書の仕方を提案したいと考えます。本についての考え方を提示するのと同時に、本の読み方にまで思いを至らせます。

「こうでなければならない」のではなく、「こうであったほうがいい」という私からの提案です。

本書があなたの読書を前向きに変革することを願ってやみません。