思想篇
第四講

最強の勉強法、天才になれる読書

こんな自分になりたい

「哲学の祖」とされるソクラテスは、「生きること」を人生の目的としませんでした。「よく生きる」ことを目的としました。私も「よく生きる」ために本を読んでいるのだと考えています。

これが欲しい、あれが欲しいというのではなく、こうなりたい、ああなりたいという「なりたい自分」があなたにもきっとあるはずです。

「もっと人に優しい自分になりたい」とか、「どんなときも冷静に対応できる自分でありたい」とか、いろいろな理想の自分像があるでしょう。そんなに抽象的でなくても、「社会的適応性がある自分」とか、「会社の会議でドンドン積極的にプレゼンできる自分」とか、「営業センスのある自分」とか。そうした「なりたい自分」に近づくためには、読書がもっとも効果的なのです。それは読書によって、自分を高めていくことができるからです。

『天才の勉強術』(木原武一著、新潮選書)の中で、木原氏は次のように述べています。

「今も昔も、最強の勉強法は本を読むことにつきる。できるだけ多くの本を、そして、できるかぎり広範囲の分野の本を読むことである。天才と言われる人びとは、生れつき何か不思議な能力を与えられていたわけではなく、たくさんの本を読んで頭のなかにたくさんの知識をたくわえて、世界で遭遇する未知の現象にそなえ、いままでだれも気づかなかった真理を発見することができたのである。」(『天才の勉強術』)

ショーペンハウアーの言葉どおり、読書によって「他人にものを考えてもらう」ことを入口として、「自分でものを考える」癖を身につけた人びとが天才なのでしょう。

自転車で例えれば、「他人にものを考えてもらう」読書とは、補助車のようなものだと思います。

補助車を使ってでも、自転車の運転そのものに慣れてしまえば、そのうち補助車は不要になり、「自分でものを考える」ことが可能になるのです。

古今東西の天才たちの歴史は、読書家の歴史でもありました。学者や作家がたくさんの本を読むのは当然ですが、それ以外の天才たちもよく本を読みました。

たとえば、政治家。日本の政治家の歴史の中で最高の成功者は、徳川家康です。

数奇な運命をたどり、幽閉などの不遇の時代がありましたが、その時に集中的に読んだのか、家康は非常な読書家として知られています。

読書から得た歴史の知識などを活用した行動で、戦国の乱世を勝ち抜いて成功したとされているのです。

その家康は儒学の書物を好んで読んだといいます。

家康の侍医であり側近でもあった板坂卜斎(いたさかぼくさい)が、その著『慶長記』で明らかにしたところによれば、『史記』や『漢書』などの歴史書や、『貞観政要』『群書治要』などの政治書と並んで、『論語』『中庸』『大学』『周易』などの儒教書を愛読していたといいます。

特に、私は『論語』ブームを日本にもたらしたのは家康の功績であると考えています。

家康ほど、『論語』を読み込んだ人間はいない(唯一の例外は渋澤栄一)のではと思うくらい、彼の開いた江戸時代は儒教の理想とする世界を実現しています。

たとえば、儒教の特徴として、高齢者を敬うという「敬老」思想があります。

家康は、将軍に次ぐ幕府の最高職を「大老」、続いて「老中」、そして「年寄」、各藩においても藩主の次に「家老」を置くなど、徹底して「老」を重視した組織を構築しました。

庶民の間でも、高齢の「隠居」に何でも相談するという敬老文化、あるいは好老文化が花開きました。そして、江戸幕府は、世界史に冠たる「長期安定政権」となりました。高齢者を大切にする社会は長続きするという法則を、家康は儒教書から学んだように思えてなりません。

日本の政治家の歴史の中で最高の成功者が徳川家康なら、世界の政治家の歴史の中で最高の成功者は誰か。

ずばり、ナポレオン・ボナパルトでしょう。

彼はアレクサンドロス大王以来の軍事的天才と言われました。

アレクサンドロスは紀元前4世紀にマケドニアからインドにいたる一大帝国を築きましたが、それ以来とすれば、ナポレオンは「2000年に1人」の英雄です。

しかし、アレクサンドロスは父王フィリッポスを継ぐ2代目であり、実質上、一代で栄華を極めたナポレオンは、まさに「人間界の奇跡」でした。

そのナポレオンは、幼年時代から生涯の最後にいたるまで貪欲な読書家でした。特に読書に集中したのは、パリの陸軍士官学校を卒業して軍隊に勤務した16歳からの数年間です。

この時期のナポレオンは、「本屋の本を食いつぶすほど」本を読んだそうです。

専門の戦術書や砲術書だけでなく、歴史、地理、法律、数学、文学と、多分野にわたっていました。そして、それぞれの分野にどっぷりとハマリました。

数学では、セント・ヘレナ島に向かう船中でも数学の問題を解くことに熱中しました。

法律では、謹慎中に、ヨーロッパ各国の法律の原典であるユスティニアヌスの『ローマ法大全』を1日で読破しました。

のちに、ナポレオンは、新しい憲法や民法を起草するにあたって、プロの法律学者に負けない法知識を披露しましたが、こういった読書の体験が背景にあったわけです。

文学では、文豪ゲーテに会ったとき、『若きウェルテルの悩み』を7回読んだことを告げ、ゲーテを感激させました。

人類史上最大の英雄とも呼ばれるナポレオン。彼が戦場においても、国の統治においても、多くの人びとを驚かせる能力を発揮することができたのは、膨大な量の情報をインプットさせた旺盛な読書のおかげでした。

また、彼ほど判断力に優れていた人物はいないとされていますが(ロシア遠征を例外として)、それも読書によって「他人にものを考えてもらう」→「自分ででものを考える」習慣が身に沁み込んだためでしょう。ナポレオンの天才の秘訣も読書にあったのです。

政治家(英雄)のみならず、芸術家の天才たちもよく本を読みました。

喜劇王チャーリー・チャップリンもその1人です。

『チャップリン自伝』に登場する著者や書名をリストアップしてみると、文学では、シェイクスピアの全作品を読破したほか、ウィリアム・ブレイク、ディケンズ、マーク・トウェイン、ホイットマン、ラフカディオ・ハーン、ジェイムズ・ボズウェル、モーパッサンなどを愛読しています。

哲学では、ショーペンハウアーのほかに、プラトン、カント、ロック、エマソン、ニーチェ、ベルクソンなどを愛読。その他、プルターク『英雄伝』とか、フロイトなどの名も見えます。『千一夜物語』は大の愛読書だったそうです。

また、莫大な資産の所有者として経済学に関心が深く、さまざまな経済学書を読みました。

ある経済学者の理論を読んで共鳴し、手持ちの株や債権を売り払い、1929年の大恐慌の被害を免れたというエピソードまで残っています。

政治家にせよ、芸術家にせよ、偉大な天才たちは膨大な本を読んだという事実を知る必要があります。彼らの天才の秘訣は読書にあったのです。