技術篇
第十二講

本との出合い方、本の選び方

「どんな本を選んだらいいの?」

本選びの単純な疑問です。

小さなころ、私にとって書店はワンダーランドでした。

いまではネットが発達して、ほとんどの本をネットで注文するという方の声も耳にします。しかし、ネットでキーワード検索して引っかかった本だけ買っているだけでは本との意外な出会い、つまり本選びの幅がありません。

書店を歩き回り、棚を眺め、そしてふいに目に飛び込んでくる本、これが本との出会いなのです。ふいに自分の手元に届く本は読んだほうがいいのです。ですから、私は出版社から献本されてくる本のほとんどを読みます。

でも、もらったから読まねばならないという義務感を感じているわけでも、顔を立てて読んでいるわけでもありません。そこで読むことが本と私の縁なのだと思っているのです。そして、そうやって得た知識で必ず発見することがあります。

本というのは基本的にいろいろな人の手を経て、たいへんな手がかかっています。無駄な本はありません。どの本にも、著者の思いがあり、編集者の思いがあり、デザイナーも営業もみんなの思いが込められています。

これは人間と同じではないでしょうか。どんな人でも意味がある。生きなくていい人間は1人もいない。それぞれに役割があるのです。それと同様、作らなくていい本は1冊もないと思ってしまうのです。それぞれ著者の思い、出版社の思い、営業の思いがあって書店に並んでいる。それを感じることができるかどうか、すべては縁なのだと思います。

これはマネージメントに近い考え方です。夫婦はお互いに結婚しようという意志を持って結びついくわけですが、普通の会社では上司や部下は選べません。この人が上司だから嫌だとか、こんな部下は嫌いだというわけにはいかないのです。たとえ心でそう思っていたとしても、職務上つき合わなくてはいけない。それでその人の良いところを見るようにする。好意的につき合わないといい人間関係はできません。

本も一緒なのです。縁があって、あなたが読むことになった。それならば、何らかの縁があります。

くだらないと思える本でも知らないことや輝くことが1つはあるものです。すべてのページが自分に有益でなければいけないなんて欲張ってはいけません。いくら初心者向けの入門書だって、自分が知らないことが1つは書いてある。それを見つけるだけでも価値があるのです。

ですから、読む人との相性が重要なのであり、出会い方によって、すべての本が大切なのです。だから、本を必要とか不必要と分けることはできません。

私が書店での本との出会いを大切にしているのには、もう1つのわけがあります。

書棚を見て回っていると、タイトルやカバーを見て、「これだ!」というインスピレーションが働くことがあります。この瞬間がじつに楽しいのです。

無意識が反応しているとでもいえるのかもしれません。

そして、この直感はたいてい正しいというのが私の見解です。

だいたい自分が良いと思った本はカバーデザインがいいはずです。無意識が反応していますから。

オビの1つの言葉にしても、著者と編集者がやり合って、大げさいえば血と汗と涙がにじんでいます。カバーにしても、タイトルにしても当然そうです。タイトルやカバーデザインを甘く見てはいけません。

カバーのデザインとタイトルが気に入ったら、8割から9割はあなたの感性に合った本なのです。私自身、こうして選んだ本には外れが少ないことを実感しています。もちろん、たまには「看板に偽りあり」みたいな本もありますが……。

これは人間の持っている第六感の世界で、言葉で説明をするのにはなかなか難しいのです。

著者や編集者と美的感覚がおなじと思ってみてはいかがでしょうか。彼ら、彼女らが「これがいい!」と決断し、デザインしているわけですから、それと共有する価値観を持てるなら、面白いと思う感性も共通していると考えられるかもしれません。

感性の共通した(似通った)著者や編集者が作った本を、あなたが味わう――そう考えると、本選びに今まで以上の幅が出てくるはずです。

ですから、私は「どんな本を読んだらいいのかわからない」という人には、まずはカバーデザインが気に入った本を買えとアドバイスしています。『人は見た目が9割』というベストセラーがありました。「本も見た目が9割」、あなたがいいと思ったデザインには、それ相応の理由があります。

子どものころ、単純に本が好きで好きでたまらず買っていた頃とくらべて、本選びの基準は違ってきています。今は、「儀礼」「マネジメント」「ファンタジー」「読書法」など、特定のテーマのものを集中して買うようになりました。もっとも、そのテーマの数は常に50くらいあります。リアル書店よりも、アマゾンなどのネットで関連図書を一括して購入することが多い。 なぜ、変化したか。それは、私が本を自ら書くようになったからです。現在の本選びの最大の基準は、執筆の参考文献探しなのです。

ずばり、私の場合の現在の本選びは執筆の参考文献探しに尽きるのです。執筆のネタに使えるかどうかが最大の基準なのである!

王道ですが、その著者の本をすべて読むということも重要です。次には、その著者が影響を受けた人の本を読んでいく。これで1つのテーマがどんどん深く掘り下げていくことができます。

もう1つがテーマです。たとえば、児童虐待の問題では、天童荒太さんの「永遠の仔」を読んで感じたら、児童虐待の本を読んでいくとか。いろいろな見方がある。その1冊にとどめないで、あえて深みにはまれと言いたい。深みにはまれば、はまるほど理解度が高まる。